融資ニーズのない経営者もノッてくる話題!「人材開発支援助成金」の活用事例

2024年09月20日
DX

前回、経営者の関心が高い助成金として「人材開発支援助成金」の概要等を解説しました。ここでは「人材開発支援助成金」のうち、「人への投資促進コース」を利用した事例やヒアリングのポイントをご紹介していきます。

「人材開発支援助成金」の概要等を知りたい方はこちら

1.人材開発支援助成金を利用した中小企業の例

まずはおさらいとして、人への投資促進コースを利用できる訓練メニューと助成率を見ておきましょう。

人への投資促進コースを利用できる訓練メニュー

出所:厚生労働省「人材開発支援助成金(人への投資促進コース)のご案内」より作成

各訓練を実施した場合の助成率(中小企業の場合)

出所:厚生労働省「雇用関係助成金支給要領」より著者作成

既にデジタルの知識をもっている人材に対する訓練をする際はa、デジタル人材の育成を強化していきたい場合はd、人を集めて研修をするのが難しい場合にはcが使える可能性があります。

では、実際にはどのようなケースで利用をされているのか、厚生労働省が作成している「人材開発支援助成金(パンフレット)」をもとにした事例をみていきましょう。
なお、ここでご紹介をしているのは全て中小企業です。

① 情報システム開発会社(従業員数:30名)
この企業では、規模が大きいシステム開発プロジェクトを担える高度なデジタル人材の充実を図りたいという課題がありました。

助成金の活用方法

訓練区分:高度デジタル人材訓練、成長分野等人材訓練

活用方法:従業員に対し、プロジェクトマネジメントの能力認定が得られる資格に対応した、外部機関が実施する資格取得講座を受講させた。

経費:資格取得講座の受講料 1人あたり280,000円

OFF-JT 30時間

助成金額:(経費助成)210,000円 / 計算根拠 280,000円 × 75%

(賃金助成)28,800円 / 計算根拠 30時間 × 960円

結果として、従業員が受注する案件の幅が広がり、今後の売上増加につながる新規取引先の獲得につながりました。

② 情報システム開発会社(従業員数:15名)
この企業では、情報技術分野や理系学生の採用が進まず、それに代わる人材を育てたいという課題がありました。

助成金の活用方法

訓練区分:情報技術分野認定実習併用職業訓練

活用方法:情報技術分野は未経験であるものの、興味関心を持っており素地がある新入社員を雇い入れた。外部機関が実施するプログラミング講座を受講させるとともに、社内でOJTを実施した。

経費:外部機関が実施するプログラミング講座の受講料 1人あたり500,000円

OFF-JT 200時間

OJT 600時間

助成金額:(経費助成)300,000円 / 計算根拠 500,000円 × 60%

(賃金助成)152,000円 / 計算根拠 200時間 × 760円

(実施助成)200,000円 / OJTを実施した助成として

結果として、組織内で未経験者を採用する際のノウハウを蓄積でき、教育方法を確立することができました。

③ 多店舗展開している小売店(従業員数:110名)
この企業では、人員の関係で集合研修の実施が難しいため、従業員に対して、集合研修に代わる一定水準の質を保った研修を実施したいという課題がありました。

>助成金の活用方法

訓練区分:定額制訓練

活用方法:新入社員から管理職までの幅広い層を対象とした営業力を高めるための研修(サブスクリプション型e-ラーニング)を15名に実施した。

経費:年間受講料:420,000円(1カ月あたり35,000円×12カ月)

助成金額:(経費助成)252,000円 / 計算根拠 420,000円 × 60%

結果として、集合研修のように交通費もかからないため、経費をおさえることができました。また、研修運営の効率化に加え、会社の生産性の向上につながりました。

④ 信用金庫(従業員数:80名)
この企業では、業務に必要な知識を主体的に習得する職員を積極的に支援していきたいという目標がありました。

>助成金の活用方法

訓練区分:長期教育訓練休暇制度活用方法:組織として30日以上の長期教育訓練の取得が可能な制度を導入。
制度を利用して企業経営コンサルタント能力を評価する資格の取得講座を職員が主体的に受講した。

経費:有給休暇 240時間

助成金額:(賃金助成)230,400円 / 計算根拠 240時間 × 960円

(制度導入助成)200,000円 / 制度導入にかかった経費として

制度を導入した結果、主体的に動けるようになったことで職員のモチベーションにつながり、他の職員にもよい影響をもたらしています。

以上、4つの事例をみてきました。どの事例も経費に対し高い割合の助成を受けていることがおわかりになるのではないでしょうか?
こういった事例を紹介することで、人材育成に後ろ向きだと思っていた経営者が、予算の問題で後ろ向きだっただけで、実は人材育成に関心があったとわかるかもしれません。
また、融資ニーズがない企業でも、人材育成や助成金のニーズはあるかもしれません。本業支援にもつながる雑談ネタの1つとして、もっておくとよいでしょう。

2.様々な研修ニーズと対応する助成金

コロナ禍で集合研修の実施が困難になったことから、e-ラーニングが普及拡大しました。オンラインにおける教育技術も高まってきており、人事担当者からも注目されています。
社員の属性、役割、スキルの獲得の進捗状況によっては、同時に複数の訓練を実施することが効果的なことも多々あります。そこで、e-ラーニングの活用が考えられます。
最近のe-ラーニングの受講料は、受講者数などに応じて定額で料金が設定されるようになってきました。コンテンツの内容を詳細に検討すると、会社が実施したい研修と一致することもあるのではないでしょうか。そういったニーズがある企業に対しては、事例③のように「定額制訓練」を提案するとよいでしょう。

なお、当記事では人材開発助成金(人への投資促進コース)を中心にみてきましたが、ぜひ「人への投資促進コース」以外にも着目できるようになっておいてください。
例えば、外部講師による集合研修等を実施したい企業に対しては、今回ご紹介している「人への投資促進コース」ではなく「人材育成支援コース(人材育成訓練)」をご提案するのがよいと思います。
また、有期契約労働者等の正社員転換を目的とした研修を実施したいという企業に対しては「人材育成支援コース(有期実習型訓練)」の提案となるでしょう。
(人材開発助成金の全体像は、こちらをご覧ください)

取引先の状況によって適したコースや訓練内容は異なりますので、何を目的としていて、どのような訓練を行いたいのかをヒアリングできるようにしましょう。

3.助成金・補助金に関するヒアリングポイント

では、取引先にヒアリングをする際のチェックポイントを確認していきましょう。
取引先に対し助成金や補助金の支援をすることが多い方は、ぜひご確認ください。

最後に

助成金や補助金は経営者からの注目があるものの、その申請には複雑でわかりにくいものがあります。一方で上手く活用ができれば多額の予算を用意しなくても会社が進みたい方向を目指すための推進力とすることも可能です。
ぜひ、本部や専門家(社会保険労務士等)とも連携しながら、取引先に対して制度の活用を提案して欲しいと思います。

 

小嶋俊裕経営総合事務所
社会保険労務士・中小企業診断士
小嶋 俊裕